競売物件に手を出そうという業者は、例外なくその部屋を見にくる。自分がこれから落札しようという物件に外国大使館が入っていると知ったら、どんな人間だって二の足を踏むだろう。そうやってズルズルと競売を引き伸ばし、なんとか自己競落を謀ろうという狙いだ。ろくに言葉も通じない中国人とO氏の奇妙な同居生活が始まった。外見は屈強で強面の二人だったが、実際はおとなしく真面目だった。どんなルート通じてここに呼ばれて来ているのか、自分たちが何をやらされているのか、半分ぐらいしか理解していないようだった。
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運び込んだ仮設風呂を三人で使っているうちに親しみもわいてきた。もともと事務所なので生活用品などはまったくない。夜は寝袋やレンタル布団でのザコ寝だ。何人かが部屋を見に来たようだが、皆、ドアに張られたプレートを見て黙って立ち去っていった。チャイムを鳴らす人間もいたが、本物の中国人が顔を出し、中国語でまくしたてると帰っていた。O氏の思惑どおりにコトは進んでいた。しかし、この計画の裏にはO氏の知らない筋書きも仕組まれていた。どうしてもこの部屋を他人に渡したくないと考えたオーナーは、O氏だけでは心もとないと思ったのだろう。関西最大手の広城暴力団の二次同体にも声をかけたのだ。暴力団に頼むことがどれだけ危ないか分かっていなかったのだろう。そのうえ、通産省OBにまで接触し、中国大使館に口裏を合わせてくれるよう働きかけてもいた。たかが競売妨害にあそこまで熱心になるのなら、少しは本業に精を出せばいい。のちに事情を知ったO氏は苦笑いした。